第4回IFA国際高齢者会議報告

第4回IFA国際高齢者会議 〜 Ageing in a society for all ages

第4回IFA国際高齢者会議が1999年9月5日から9日まで、カナダのモントリオールで開催された。国連・国際高齢者年の最後を飾る国際会議である。参加者は1800人。全世界、六大陸から高齢者分野のリーダー、専門家が集まった。

この会議の中のユニバーサルデザインの「ビジョン」をテーマにしたセッションにおいて、萩野美有紀(アール・イー・アイ)が「目で見て触って聞くサイン計画」についてプレゼンテーションを行った。

主なテーマ

  • ユニバーサルデザインとアクセシビリティ
  • エコノミーセキュリティ
  • パーソナルセキュリティ
  • クリエイティビティ
  • 「ビジョン」をテーマにしたセッション

司会

  • Bill F.crandall氏(スミスアンドケトルウエル研究所 アメリカ)
  • プレゼンテーター
  • 堀川美智子さん(株式会社ソニーカスタマーサティスファクションセンター部長)
  • Elke Lehning-Frickeさん (西ドイツ)
  • 萩野美有紀(アール・イー・アイ株式会社)
IFAテーマ画像
IFAテーマ画像
会議の模様
I会議の模様

「目で見て触って聞くサイン計画」

萩野美有紀

以前イギリスのロンドンにいった時のことです。

友人の家に滞在したのですが、そのとき、私はその家の洗面所の鏡に姿が映りませんでした。幽霊になったわけではなく、私の背が小さすぎたからです。

私の身長はイギリスの大人の標準値からはずれていて、スペシャルニーズなわけです。ところかわれば標準がかわります。同様に時代もかわれば、標準はかわります。高齢化はまさにこのことなのです。

私は工業デザイナーです。手がけている仕事の多くはサイン計画です。グラフィックデザインと建築と工業デザインがまじりあった分野で仕事をしています。プロジェクトは主に大規模で多種類の施設がある公共建築物や民間建築物それに地下鉄や空港といった交通機関などです。

私の仕事の使命は、利用者が迷う事なく目的地に到達できるように、サインがはっきりよめて間違えなく意味が伝わり、なおかつその場所が美しい空間であるように計画をすることです。

10年程前は、現役の年代の人たちを利用者として想定していました。しかし次第に高齢化がすすみ、かつ高齢者とよばれる人が隠居ではなく実社会で数多く活躍するようになってきました。また障害者の社会参加もあたりまえになってきました。

はっきりと読めるようにする対象者がひろがってきたのです。

そしてさらには読めない人への配慮が必要となってきました。

視覚に障害があり文字や図形による案内では用が足せない場合です。音声や触覚による案内が有効になってきました。

対象者のいろいろな状況、多様な条件を解決するためには、視点をたくさんもつことが重要です。

どこで
だれが
どんな状況で
なにをするのか を考えることが大切です。

これらをできるだけ想像し的確な設定をすることがグッドデザインに必要なことです。

対象者が拡がった結果、対象者としている人々と同様な生活体験を、デザイナ−自身が持っていない場合が多くなります。未来の自分は想像でしかありません。思い込みのデザインにならないためには、知ることが必要です。体験がないのだから知識として身につけなければならないと私は考えます。

歳をとったら眼が遠くなるということを知るだけではなく、それは何歳くらいの状況であるか、個人差は大きいのか小さいのか、見えにくくなるとは具体的にどのような見え方になってくるのか、では見え易くするのはどうすればいいのか、大きくするのか、色はどうか、表面がつやつやしていても大丈夫かなど、知ることが大切です。そしてさらには『75才の東京にすむ男性はどのような生活を送っているのか』までふみこんでイメージしてみることも必要なのではないでしょうか?

私の場合は高齢者や障害者とともに行動したり、じっくり話しを伺ったり、日々の生活のなかでたとえば電車の中で人間観察をしたりしています。

これから私が手掛けた事例をご紹介いたします。

これは日本の地方都市である岐阜県の鉄道駅そばに2001年に完成する予定の5階建ての公共施設です。

座席数600席のホールやイタリアンレストランそれに会議室5室やカルチュア室5室ができます。カルチュア室では市民がお茶会をひらいたり勉強会をしたりすることができます。

私はこの建物のサイン計画をいたしました。クライアントに「これからはユニバーサルデザインを実現したすぐれた空間であることが必要である。そのためにはサイン計画は建物の設備、照明、インテリアから運営までを包括したち密な計画が必要である」と説明し賛同をえることができました。なお日本では、アクセシビリティのための法的な基準がサイン関係にはないことをお知らせします。

いくつかの試みをしましたのでご紹介します。

この建物の特徴は以下です

  1. 岐阜県の中心である岐阜市にあり、建物は鉄道駅に直結しています。非常に交通の便利がよい、アクセスしやすい場所です。岐阜市の人口は45万人です。
    市内に住んでいる人だけではなく、近くの市からも鉄道やバスで来館する人が多いことが予想されます。
  2. ホ−ル、会議室、カルチャ−室は誰でも借りる事ができます。
    ホールやカルチャ−室での催しは多岐にわたると思われます。
  3. スタッフによる案内はあまり行わない。
    丁寧なサインが必要です。

このように不特定多数の人が様々な目的で来館します。また、月に一度というように、定期または不定期で何度もやってくる来館者も多いことが予想されます。

このような利用者を想定したこの建物のサイン計画のポイントは以下の3点です。

第1に位置と大きさです。背中がまるくなったり車いすに乗っている場合のような低い視線と立位の視線の両方を意識し、表記は1000mmから1700mmの範囲にしました。しかし全館を案内するサインは盛り込む情報が多いので、表示面を大きく、文字も大きくし、やや離れて 1000mmから2000mmの広い範囲をみることができるように考えました。解決の選択肢はいろいろあるなかから全体のデザインの統一としてこの方法にしました。

第2は音声案内です。音声案内装置には2種類があります。音声案内を聞くために器具が必要な装置と、必要としない装置です。入口から入って一番始めに利用する全館案内のサインには器具を必要としない、スイッチをおすとスタートする音声案内装置を設けました。

音声案内の内容は各フロアにどんな施設があるかの案内です。読めないもしくは読むのが面倒な利用者には良い装置です。ただ音声案内ははじめからおしまいまでを聞くと言うのは面倒ですし必要な所だけを聞きたいことでしょうから、自動の頭だしのような機能をもった音声案内装置を計画しています。また途中で終了することもできます。音声案内の操作をいかに簡単にするかが大きなポイントです。

各部屋やお手洗などには、聞くための器具が必要な音声装置を設けています。これは利用者が器具=レシーバーを持ち各部屋の入口に設置された発振器から発信された赤外線を受信することで手許の受信機が音声案内を出し、利用者がどの方向に何の部屋があるか知るものです。このレシーバーは必要な来館者に貸出すのですが、全館案内のサインの音声案内で「貸出しをしていることや貸出し方法」をお知らせします。

第3は触覚の活用です。

入口から一番始めに利用する全館案内のサインまではは床面にdetectableな違いをつけて、たどれるようにしています。

各階のエレベ−タ前には、各階のレイアウトを知らせるタクタイルマップを設置しています。音声案内で方向を知る前に全体のレイアウトが分かっていれば、方向が理解しやすくなります。これは他人の話しを聞く時に概要がわかっていれば飲み込みやすいのと同じです。タクタイルマップは地元の伝統的な名産の焼き物を使い、見ても触ってもわかりやすい、美しいものになると思います。岐阜県は木材や陶器が名産です。サインの本体の素材もこの名産を用い特徴にしています。

さらに部屋名の表記はraised charactersにして触って読めるようになっています。触って読み易いように、そして憶え易いようにカルチュア室は親しみのある簡単なネーミングを提案しています。

そのほか点字の表示は床から1400mmの高さで必ず斜めにでっぱりがある部分につけることを共通化しています。これは、点字が読める利用者に対し、斜めの部分に手がふれたら、点字があるはずだからと探っててもらうためです。

以上の3点のほか、オ−プン後は周知活動が必要です。設備が十分に活用されるためには、「県のお知らせ」や地元の視覚障害のグループなどに積極的に「設備を備えていること」をアピールすることが重要です。

計画段階では気づかなかった細やかな事柄を調整して使い勝手をベストに近付けるために、我々デザイナーが計画だけではなく施工や初期の運営まで継続的にSuperviseしていくことが大切だと思います。

50年後にはすべての人がオリエンテーションロボットを腕につけているかもしれません。しかし当分は、どんどん複雑になり、案内する内容も増えているこの世の中でサイン計画をやっていかなければなりません。日本の首都東京は1200万人が住んでいて地下鉄だけで12路線、地上にはさらに多くの路線があります。

チャーミングでユニバーサルなデザインであるためには智恵と創造性が要求されます。いろいろな状況でなおかつ条件が厳しいユーザーを相手にするのですから、オールマイティの切り札はなさそうです。しかしながら知識とイマジネーションとひらめきをフル回転させて、トライを続けていくことにより、道はだんだんと拓けてくるのではないでしょうか。先程の岐阜の例も最初の一歩として次のトライの種になることでしょう。